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一時的置き場
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「羽倉、むぎをこれに連れて行ってくれ」
「は?」
 いきなりの言葉と共に渡されたチケットは御堂グループ系列のホテルで行われている家族向けディナーショーだった。子供向けアニメのショーが盛り込まれている。
「あ~。ちび、好きだもんな……」
「仕事がなかったら、俺が連れて行ってやるんだが、そうもいかなくてな……」
 その言葉にはどこか、休みが取れずに子供を遊園地に連れていけない父親にどこか重なって見えてしまう。まだ18歳にもなっていないのに、これはどうかとは思うが、本人の生き方に口を出すわけにもいかない。
「そりゃいいけどよ。俺でいいのか?」
 他の二人も言えば連れて行ってくれるんじゃないかと、素朴な疑問を口にすると、一哉はどこか遠い目をして言った。
「お前とむぎなら、普通に兄妹に見えるからな……」
「それって、一宮はともかく、松川さんはシャレになんねえな……」
 間違っても本人の耳にいれてはいけないのは、けっして気のせいではないだろう。麻生は固く心に誓った。
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(これで安心、か……)
 人形が幼子に渡れば、それを口実に今後も呼び出されてしまうだろう。それは水際で阻止できたと一哉は内心で安堵するが、敵は祖母だけではなかった。
「だが、むぎちゃん、せっかくその人形と友達になったのなら、また遊んでやってはくれないか? むぎちゃんと遊びたがると思うがね」
「あ……」
 義武のその言葉に幼子はおずおずと一哉を見上げる。余計なことを…と、内心で思いはするし、祖父母にも気付かれているだろう。敢えて、口には出さない。
「俺と一緒になら、な」
「うん♪」
 幼子に甘いことは自覚しているし、読まれてもいるのだろう。だから、せめてもの意趣返しで、自分と一緒にくるように、と幼子に約束させる。
「また、来るね」
 そう人形に話しかけるむぎを一哉は抱き上げる。
「さ、帰るぜ?」
「うん♪」
 抱き上げられた幼子はニコニコと一哉に抱きつく。微笑ましい光景に老夫婦は目を細めた。
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「今日は楽しかったわ、むぎちゃん」
「むぎも楽しかったの♪」
「そうか、それは何よりだ」
 あの後、お人形遊びだけではなく、色々と一哉の祖父母に幼子は構われた。その挙句に、夕食まで食べて行くことになった。そのため、御堂家お抱えのコックは幼子のためにお子様ランチを作ることになったりと、色々あって。泊まるのは断固として一哉が拒否したのと、『おにいちゃんたちがおるすばんしてるから、かえる』と、幼子も帰る意思を表示したので、避けられた。(前者だけなら、幼子だけでも置いて行けと言われる可能性は高かったとは思う一哉である)
「これ、むぎちゃんにおみやげ」
 そう言って、蘭が幼子が遊んでいた人形を手渡そうとすると、幼子は首を振って固辞した。
「むぎ、いい」
「むぎちゃん、遠慮しなくていいのよ? 今日の記念にと思ってくれれば」
 その言葉にも首を振って幼子は言った。
「ほかのこからはなれちゃうの、かわいそう……。だから、むぎ、いらない」
「むぎ……」
 蘭にしてみれば、たくさんある人形のうちの一つだ。思い入れがない訳ではないが、幼子が喜んでくれればという思いからの行動だった。だが、幼子は沢山の仲間(もしくは家族)から、一つだけ離れてしまうことが可哀想だという。
「ひとりだと、さみしいの……」
 幼子の言葉に一哉は何とも言えない気持ちになる。幼子自身が時間を超えた迷い子であり、一人ぼっちだ。自分に重ねたのかもしれない。
「むぎちゃんは優しいわね……」
 幼子を見つめる一哉の表情から何かを察したのか、蘭もそれ以上は強く言えなくなった。
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