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一時的置き場
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「……」
 御堂家の玄関で大きな瞳がじっと自分を見上げて来ることに皇は固まる。
「こうおにいちゃん、いおりおにいちゃんはまだがっこうなの」
「あ、そっか……」 幼子は自分が訪ねてきた理由を察してくれたらしい。
「おにいちゃんがかえるまで、あがってまってる?」
「い、いや。って、一人で留守番か?」
「ううん。あさきおにいちゃんがいるの」 そう言って、幼子が振り返ると、走ってきたらしい麻生が幼子を抱き上げた。
「こら、ちび。俺らと一緒じゃなかったら勝手に玄関開けちゃだめだろ?」 そう言って、麻生は幼子の頭を軽くつつく。
「おにいちゃん、ごめんなさい……」
「まぁ、皇さんだから良かったけど……。悪い大人とかじゃ、兄ちゃんたちが守ってやれないだろ?」
 まるで、兄妹のやりとりだ。麻生とだからだろう。これが兄の依織だとか、瀬伊の場合では何かいかがわしく見えるのだ。(ああ、でも、御堂とじゃ、親子だな……)
 もちろん口には出さない。万が一にでも、耳に入れば、この家を出入り禁止にされかねない。
「皇さん、松川さんならもうしばらくしたら帰ってくると思うぜ。遅くなるとは聞いてないし」
「あ、そうなのか?」
「何なら、リビングで待っててもらってもかまわないぜ。って、何のおかまいもできないけど」
「じゃあ、むぎもいっしょにまってる!」
 麻生はともかくとして、幼子に言われると、何となく帰れない気分に陥る
「じゃあ、あがらせてもらう……」
 そんなわけで、リビングで依織の帰りを待つはめになる皇であった。
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「こむぎちゃん、お出かけしようか?」
「お出かけ?」
「こむぎちゃんに似合いそうなお洋服があったからね。それを買ったら、ドライブしよう?」
「うん、くるまでおでかけ~♪」
 小さなお姫様とのドライブデート。無邪気にはしゃぐ幼子に悪い気はしない。洋服を買ったら、水族館にでも連れて行こうと思っていた。


「あら、可愛い~♪」
「むぎ、かわいい?」
「ええ、よく似合ってますよ~。お兄さんにも見てもらいましょうね~」
 店員の言葉に嬉しそうに声を上げる幼子。試着室の外にいても、可愛らしさが伝わってくるようなきがして、依織はクスクス笑う。
「おにいちゃん、にあう?」
「もちろんだよ、こむぎちゃんに似合うと思って連れて来たんだし」
 真っ白のワンピース。ウエストをリボンでふんわりと結んで。
「じゃあ、それで出かけよう。すみません、この子が着てた服を包んでください。このまま、着ていきますから」
「かしこまりました」
 カードで支払ってから、幼子を改めて見つめる。
「髪は降ろしてた方が可愛いかな」
 二つに結んだ髪をほどいて、手櫛で整えてやる。
「うん、可愛いよ、お姫様」
「ありがとう、おにいちゃん」
 はにかみながらも、幼子は嬉しそうに笑う。
「おにいちゃん、まほうつかいさん?」
「どうして?」
「むぎをおひめさまにしてくれるから」
 おとぎ話で少女をお姫様にするのは魔法使いの仕事。けれど、依織は魔法使いに甘んじる気はない。
「魔法使いよりは王子さまがいいな」
「むぎのおうじさま?」
「そうだよ、お姫様」
 そう言って、優雅に手を伸ばすと、小さな手がそれをギュッと握ってきて。そのぬくもりが未来のむぎにつながっているような気がして、ひどく愛しいと思った。

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 瀬伊がリビングに入ると、泣きじゃくる幼子に戸惑っている麻生という、珍しい光景に出くわした。どちらかと言えば、幼子の子守役で泣いたのを慰める役割なのだ。
「羽倉、何やったの?」
「知らねー。テレビつけたら、いきなり泣き出して……。今、テレビ切ったとこ」
「何か、格闘物とか見せたの?」
「違う! 音楽番組っぽかったけどな。何か有名なピアニストの特集番組。ピアノの演奏が始まった途端に泣き出しちまって……」
「何の番組?」
 新聞のテレビ欄を渡されて、瀬伊は目を通す。
「青樹……」
 その名前に瀬伊は新聞をくしゃくしゃにしなかった自分を褒めてやりたい気分になった。
「知ってんの?」
「僕が習ってた先生。っても、飛び出したけどね……」
 そう言って、瀬伊は幼子に視線を落とす。
「こむぎちゃん、大丈夫?」
 負の感情をピアノに乗せる彼の音色に反応したのだろう。幼子には毒でしかない。
「嫌なの、あのおと……」
 テクニックとはかけ離れた部分、いわば本能で分かるのだろう。
「むぎ、おにいちゃんのピアノがいい……」
「うん、ありがとう……」
 幼子をギュッと抱き締める。
「そっか、音色がダメだったのか……」
 幼子が泣き出したので少ししか聞いていないが、瀬伊のピアノを日常で耳にしていることもあり、音の違いに麻生も驚きはした。
「一宮、ちびを頼むな」
「うん……」
 幼子を抱き上げると、瀬伊はピアノ室に向かった。

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