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一時的置き場
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 バイクを置きに行くついでにと、一哉に電話をして、幼子が自分といることを伝えた麻生であったが、どうも要領を得ない。
「御堂、ちびが出て行ったことに気付いてなかったのか……」
 幼子が家から消えてしまって、心配しているだろうと思い、電話してみれば、どうも気付いていなかった様子の一哉を麻生は不思議に思う。ふだんの彼なら、せめて目の届くところに幼子を置いて、仕事をするだろう。そう考えているからこそ、麻生だけではなく、他の同居人たちも幼子とふたりにして出かけたのだから。
「ちびと何かあった、な……」
 考えられるのは、それだけである。そうして、目を離してしまった間に幼子は家を出てしまったのだろう。
「ちびに後で聞いてみる、か……」
 うまく説明してくれるかどうかは分からないが、一哉に問うよりは確実に答えは得られるような気がした。
「ちび、待ったか?」
 知らない人間と待たせていたから、泣いて瀬戸口を困らせていないだろうか…と、一哉に電話していた分かかった時間を取り戻すように麻生が急いで戻ると、
「おかえりなさい、おにいちゃん」
と幼子が笑顔で迎えてくれた。泣いていなかったことにまず安堵する。
「ちび、いい子で待ってたか?」
「うん。カモノハシさんとちゃんとまってたの」
 まるで、年の離れた兄弟、またはある意味親子のような微笑ましいやりとりに瀬戸口もついえみをこぼした。
「じゃあ、俺たち行くんで」
「おじさん、ありがとうなの」
 幼子の手を引いて、麻生が学校を出ようとすると、可愛らしく手を振って瀬戸口に挨拶をする。
 幼子の手を引いて、麻生が学校を出ようとすると、可愛らしく手を振って瀬戸口に挨拶をする。
(いつか、御堂がいってたけど、本当人懐っこいよな……)
 いつの間にか、彼らに取って掛け替えのない存在となった家政婦さんの愛される片鱗を見て、麻生は何となく複雑な気分になった。
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 一方、一哉はと言うと……。
「ああ、その案件に着いては原因が分かり次第、連絡しろ」
「ああ、俺だ。あの件はこちらの方向で任せる」
 幼子に『きらい』発言されたものの、いつまでも落ち込んでいる訳にもいかず、社長の顔に戻った一哉は降り懸かって来た案件をてきぱきと処理していた。
「ふぅ……」
 ある程度、案件が片付くと、一哉は窓の外を見る。どこまでも広がる快晴の青空。『そとにいきたい』、幼子にそう思わせるだけの綺麗さ、だ。
「後で散歩に連れて行ってやるとでも言えばよかったか……」
 後がいつになるかはわからない。不確定な約束なら、しない方がましだ。そう思って口にしなかった。
「近所の公園に散歩にくらいは連れて行ってやれるか……」
 案件の山は一応は越えた。一時間くらいなら、捻出できるだろう、そう考えた時、一哉の携帯が着信音を鳴らした。
「羽倉……」
 出かけているはずの麻生からの着信に戸惑う。麻生から連絡してくることはあまりないのだ。そう思いながらも、一哉は携帯に出た。

『御堂、ちびはここにいるからな!』
「……は?」
 電話に出たとたんの麻生の第一声に一哉は一瞬何を言われているのだろうかと思った。だが、次の瞬間にハッと気づく。手を振り払われた後の幼子の状況をまったく把握していなかったことに。外出を禁じたのだから、家の中でおとなしくふてくされているだろうとは思ったのだ。外に出て行くという、幼子にそんな行動力あるとは思いもせずに。
(……ぬかった。小さくても、あいつは”鈴原”には違いない……)
 麻生とまったく同じような感想を抱く。そして、自分のうかつさにも頭を抱える。いくら仕事があったとしても、幼子を目の届く範囲に置いておくべきだったのだ。幼子が出て行ったことにも気づかなかった自分に呆れるしかない。麻生は和也がむぎがいなくなったことで探し回っていると思って電話してきてくれただけに、自分のうかつさが際立ってならない気がした。
『御堂?』
 返事がないのをいぶかしむ麻生の声に一哉は現実に立ち返る。」
「ああ、すまない。羽倉が見つけてくれたのか?」
『ああ。ダチが急用で予定がつぶれちまって。お前とちびだけだし、お前、仕事あるってたし。だから、戻る途中でちびを拾ったんだ』
「……そうか」
 ある意味、むぎは強運の持ち主かもしれない。タイミングよく麻生に拾われたのだから。
『とりあえず、ちびつれて、適当に遊んでくる。今はちびも帰りにくいだろうしな……」
「ああ、頼んだ」
 複雑な思いをしつつも、麻生の申し出を受けるのは今は一番なのだ。あの時強く振り払われた手がどこかで傷む気がした。

 麻生からの電話が終わると、一哉はコーヒーを入れにダイニングに下りる。コーヒーの香りが普段は疲れを紛らわせてくれるはずなのに、今はそんな風にもなれなくて。
「あの馬鹿……。いや、馬鹿なのは俺だな……」
 幸い、麻生が拾ってくれたから良かったものの、もし事件や事故に巻き込まれていたらと思うと、背筋が凍る想いがした。あの時、病院からかかってきた電話の時のような思いをまたすることになったのかもしれないのだ。むぎが倒れて、意識が不明だという、あの電話を……。
 子供の行動が突拍子もないものだということは嫌でもわかっていたはずなのに、目を離してしまったのだ。
『本気で嫌われてるのかも、な……」
 子供のかんしゃくだとわかっていても、自分の愚かさに一哉は唇を噛んだ。

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 麻生が向かったのは祥慶学園であった。バイクを安心して置ける場所であり、幼子を見つけた地点から近かったからである。
「羽倉様……?」
「わりぃ、バイク置かせてくれねぇか?」
 休日の学園にやってきたラ・プリンスの姿に瀬戸口は戸惑ったような顔をするしかなかった。
「一体……」
 驚きながらも、瀬戸口が尋ねると、麻生は自分の影に隠れて様子を伺う幼子に視線を向けた。
「ちょっと事情があって、御堂が預かった子供なんだけど……。御堂に隠れて、家を出てきちまって……。とりあえず、こいつが家に帰りたくなるまでは、俺が面倒見るんで……」
「ああ、鈴原先生の親戚のお嬢さんでしたね」
 学園では倒れたむぎの親戚の子供を一哉が預かっているということで通っているので、話は早かった。
「一人で外には出せないしな……」
「むぎ、ひとりじゃないもん。カモノハシさんがいるもん!」
 麻生の言葉に幼子は可愛らしく反論する。
「……なるほど。わかりました。置いてきてください。その間は私が見ていますよ」
「悪いな。ちび、俺が戻ってくるまではここでおとなしく待ってろよ」
 麻生の言葉にむぎは瀬戸口を見上げる。
『おじさん、おにいちゃんのおともだちなの?」
 幼子のあどけない問いかけに瀬戸口と麻生は何ともいえない微妙な顔をしたことは言うまでもない。
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