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一時的置き場
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「フィンランドから、サンタクロースを呼ぶべきか?」
「……御堂」
 クリスマスツリーの準備をしているところに、真顔でそういう一哉に麻生は唖然とする。
「ガキに向こうの言葉がわかるかよ」
「しかし、サンタクロースといえばフィンランドが本場だろう? 子供のうちから本物を見ていたほうがいいと思うが……」
「いや、だから……」
 幼子への愛情のベクトルがいささか突っ切ってしまっている。
「でも、問題はこむぎちゃんがサンタを信じてるかだよね」
「……あの年頃の子は信じてるんじゃないのかい?」
 瀬伊の言葉に依織がそう言うと、瀬伊は軽く肩をすくめた。
「僕は信じてたけどね。一哉とか松川さんは違う気がするんだけど……」
「あ~。俺も信じてたくちだけど……」
 珍しく瀬伊の言葉に同意する麻生である。
「まぁ、うちはそういう祝いをする習慣はなかったしね」
 依織は苦笑する。この時期は新年の顔見世もあり、そういう祝いどころではなかった。
「まぁ、サンタの格好なら、学園長に頼んでみたら? 似合いそうじゃん」
「カーネルおじさんっぽいかもな」
 もちろん、学園長は自分が引き合いに出されてることを知らない。
「こむぎちゃんにさりげなく聞き出すしかないね……」
 サンタクロースの存在を信じているのなら、その存在を演じるものを、もし、信じていないのなら、彼らからのプレゼントを彼ら自身の手で…と。


 けれど、彼らのそんな思いを幼子は知ることはなく。無邪気にこう言った。
「あのね。おとうさんがサンタさんなの」
「……え?」
 信じているのかいないのか、わからない微妙な答え。
「こむぎちゃんのお父さんはおじいちゃんなの?」
 その問いかけに幼子は首を振る。
「あのね、サンタさんはせかいじゅうのこどもにプレゼントあげるから、いそがしいの。だから、おとうさんがさんたさんにおねがいされて、むぎとなえちゃんのサンタさんになってくれるの。おかあさんがそうおしえてくれたの」
 ニコニコと答える幼子に彼らは顔を見合わせる。そう教えることによって、子供の夢を壊さないようにしたのだろう。ある意味、それは嘘ではないのだから。
「じゃあ、俺たちもサンタになっていいか?」
 一哉の言葉に幼子は一瞬キョトンとして。
「……おとうさんたちはまだとおくなの?」
 泣きそうな寂しそうな顔。時の迷い子となった幼子は彼らにすっかり懐いてくれたけれど、本当は家族が恋しくて仕方ないのだろう。
「……すまない」
 一哉の言葉に幼子は慌てて首を振る。
「おにいちゃんたちのサンタさん、うれしいの」
 ギュッと一哉に抱きついてくる。そのぬくもりが愛しくて、切なくて、一哉は幼子をそっと抱きしめた。

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「こむぎちゃん、お土産だよ♪ 開けてみて♪」
 そう言って、瀬伊が差し出した大きな包みを幼子は言われたままにリボンを解いた。
「これ、なぁに?」
 包装を解くと、白くて、ふんわりなもこもこしたものが出てきた。
「着ぐるみか?」
「あたり、だよ。」
 覗き込んだ麻生の問いを瀬伊は肯定して、それを広げた。
「うさぎさん?」
 真っ白なふわふわの生地に、長い耳。紛うことなく、うさぎの着ぐるみである。
「うさぎの着ぐるみパジャマだよ♪」
「よく見つけたな……」
 こういうところでは手間を惜しまないのが、瀬伊らしいとも思いはする。
「こむぎちゃんに似合うと思うんだ♪」
「うん、むぎ、きたいの!」
 キラキラした瞳で見上げてくる。
「うん、お兄ちゃんもこむぎちゃんが着ているところ見たいな。でも、パジャマだから、お風呂に入って、寝る前まで待っててね」
「うん、むぎ、まってる」
 期待に輝く瞳。麻生はそこで瀬伊の目的に気付いた。
「おまえ、考えてくれたんだな……」
「ふふ、こむぎちゃんが風邪をひくのは可哀想だし」
 風呂上がりに下着姿で走り回る幼子の行動を考えて、瀬伊は幼子が着たくなるようなパジャマを用意したのだ。
「そういうわけで、お着替えを手伝わなきゃだし、僕がこむぎちゃんをお風呂にいれるね♪」
「おまえ、御堂に通報されるぞ……」
 一瞬とはいえ、感心した自分がバカだったのかもしれない…激しく麻生は思った。
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 冬に差し掛かると、さすがに寒くなるが、御堂家においては冷暖房がしっかりしているので、そんなこととは無縁の世界。お風呂からでて、寒い!と叫ぶことはない。
「こら、ちび、待て!」
「むぎ、さむくないもん!」
 そういうわけで、ここ数日、午後8時すぎくらいこのような攻防が繰り広げられている。お風呂あがりの幼子が下着姿で家のなかを走り回り、麻生が主にそれを追いかける。冷暖房完備ゆえにお風呂上がりの下着姿でも、湯冷めの心配はなく、ほかほかゆえに幼子はパジャマを着たがらないのだ。
「またやってるんだ」
 ピアノ室から出てきた瀬伊はその見慣れた光景にクスクス笑う。とはいえ、麻生が幼子とじゃれあっている光景はあまり面白くない(麻生にしてみれば、じゃれあっているわけでもなく、躾の一環であるのだが)。
「こむぎちゃん、お兄ちゃん、こむぎちゃんの可愛いパジャマ姿がみたいなぁ♪」
 そう言って、瀬伊は目の前を通過しようとした幼子をあっさりと捕まえた。
「やだ、まださむくないもん~」
「一宮、離すなよ!」
 幼子のパジャマを手にした麻生から隠れるように瀬伊の後ろへ移動するが、麻生が見逃すはずもない。
「ほら、ちび、ばんざい」
「う~」
 麻生の言葉にようやく従い、幼子は両手をあげて、パジャマを着せてもらう。卵色のパジャマは幼子に似合っている。
「こむぎちゃん、今度はお兄ちゃんに着せさせてね♪♪」
「風呂は入れるなよ」
 瀬伊の言葉にそう釘は刺すものの、通じてはいないだろうなぁ…と麻生は思った。
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