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一時的置き場
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「おいで、お姫さま」
 家政婦時間の最中、頼まれた仕事を終え、一息ついていたら、そう依織に手招きされた。こういう時の依織はむぎを喜ばせることしかせず、そのため、むぎが彼の部屋に入ると、ソファに座ることを勧められた。
「頑張っている家政婦さんにご褒美だよ」
 そう言って、依織がむぎに出してくれたのは、アイスティーだった。
「ありがとう、依織くん」
「お姫さまの笑顔が一番だからね。さ、どうぞ」
「うん♪」
 勧められて、アイスティーを飲もうとして、むぎはあることに気付いた。
「これ、何の香り?」
 甘い感じの香りにむぎは首をかしげる。ほんのり苺風味な香りに混じった香り。
「シャンパンの香りだよ。そういうフレーバーティーなんだ」
「へえ、そんなのもあるんだ~」
 思わずしげしげとアイスティーをみつめてしまう。
「本物のシャンパンは君が大人になってからだからね。今は香りだけでも、たのしんでくれるかな」
「ありがとう、依織くん」
 大人になったら、一緒に飲もうね、と指切りして、むぎはアイスティーに口をつけた。

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「御堂、ちびを風呂に入れてくれねえ? 俺、手が離せねえから」
 洗い物をしながら、麻生はリビングで経済番組をチェックしていた一哉に声を掛ける。幼子を風呂に入れるのはもっぱらこの二人の役目だった。もっとも、一哉は仕事が忙しく、幼子が起きている時間にいれば…の話ではあるが。ちなみに依織は協力してくれないわけではなく、幼子が恥ずかしがるからだ。瀬伊はお風呂で幼子と遊んでしまい、使用後がひどいことになったので、こうなってしまった。
「わかった、むぎ、風呂に入るぞ」
 そう言って、一哉が幼子に声を掛けると、幼子は遊んでいたおもちゃをおもちゃ箱にしまいに行く。誰に言われるまでもなく、自分で、だ。最初にこれを見た時に、
「むぎちゃんのご両親の躾はしっかりしてるみたいだね」
と、依織が感心し、
「一哉、こむぎちゃんにもおかたづけでは負けてるんじゃないの?」
と、某妖精さんに楽しそうに言われた。その時の一哉の憮然とした顔が妙に忘れられない麻生である。
「おにいちゃん、むぎ、おふろにはいるの」
「ああ。行くぞ」
 幼子を抱き上げて、一哉は二階のバスルームに向かった。

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「そういえばさ、むぎちゃん自身の守護星って?」
 同居人が全員そろったリビングで瀬伊がそんなことを聞いてくる。
「あたしの守護星? あたしは蟹座だから、月なんだ。だから、セーラームーンごっこする時はいつもうさぎちゃんだったの」
「セーラームーンごっこ……」
 子供らしいあそびとは無縁だったり、女の子の遊びになど興味が無かったりする彼らにあまり理解ができるはずも無く。
「あぁ、あれが放映中は関連商品がよく売れたらしいな。実写もあったし、対象は幼い女児向けだったが、一部の青年男子にも絶大的な人気を誇っていたな」
 と、見解を示す程度だ。
「当時の子供に分析されるっつーのも、ある意味、嫌な話だな……」
「何か、小さい一哉がマーケティング市場を見て、分析してる姿が浮かんできそうで嫌だなぁ……」
 麻生と瀬伊の言葉に依織も苦笑する。
「でも、月って、魔力が宿るとか言われるし、あんまり好きじゃないんだよね……。ルナティックって月がもたらす狂気だし」
 狼男は満月の夜に変身し、魔女は満月の夜に独り立ち。かぐや姫はお迎えがやってくる。
「アメリカのある外科医は満月の夜には手術をしないとも言うな。ああ、潮の干潮、満潮も月がもたらすというな……」
 地球と月の引力がもたらす自然現象。そこまでスケールの大きい話をしたかった訳ではないのでむぎは笑ってしまう。
「でも、月は夜に明かりをもたらせてくれるよ? 新月の夜は夜空中の星を集めても、月の光にはかなわないし」
「だよな~。今は外灯があるっつっても、なぁ」
 だから、気にしなくてもいいよ、とのフォローだったが、そこで終わらないはずがなく。
「女の子のリズムも月と同じだしね♪」
 にっこりと瀬伊は笑う。
「んだよ、女の子のリズムって……」
 麻生の問いに、
「駄目~!」
と、むぎが真っ赤になって瀬伊の口をふさぐ。
「何なんだよ……」
 その様子に戸惑う麻生に一哉が呆れた口調で言った。
「俺たちの中で女兄弟がいるのはお前だろう」
「はぁ? 姉貴がいるのと月のリズムに何の関係があるんだよ」
 わけが判らないという顔をする麻生に今度は依織が困ったように言った。
「麻生。月の満ち欠けは28日周期だよ。それが女性のリズムだと言われてるし、月に因んで言われもするだろう?」
「月に因んでって……。っ……」
 途端に思い至ったのか、麻生は顔を真っ赤にしてしまう。
「みんなの馬鹿~」
 そう叫んで、むぎはリビングから逃げ去ってしまった。
「俺も悪いのかよ……」
 麻生的には納得が行かず。
「一宮も悪いが、お前も察しが悪い」
「麻生らしいけど、女の子はデリケートだからね」
 だから、気を使ってあげないと…と言葉を添える依織。
「そうそう。これで学習した」
「お前が言うな!」
 麻生の言葉に年長者二人は口に出さないが、内心で同意はしたのであった。
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