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一時的置き場
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「はろうぃん~」
 ぱたぱたと幼子が廊下を走り回る足音に一哉はパソコンから目を離した。
「ああ、そうか。今日はハロウィンだったか……」
 忙しさに紛れ、行事ごとには疎くはなっていたが、同居人が幼子を構える機会を見逃すはずもない。
「しかし、参ったな……。お菓子を持っていない」
 期待に紛れた瞳でお菓子かいたずら化の選択を迫る幼子の姿が目に浮かぶ。けれど、持っていなければ、幼子と一緒にいるであろう妖精の二つ名を与えた悪魔にどんないたずらをされるかわかったものではない。
「仕方ない……」
 一哉は携帯を手に取ると、同居人に電話をかけるのであった。


「一哉、頼まれたものかってきたよ」
「ああ、すまない。松川さん」
 可愛らしくラッピングされたキャンディーの袋を安堵の表情で一哉は依織から受け取る。
「こむぎちゃん、昨日から瀬伊と楽しく内緒話してたからね。必要かもしれないと思って、買っておいたんだよ」
「そうか……」
「小さくてもお姫様に振り回されてるよね、僕たちも」
「それがあいつだからな」
 そんな会話をしていると、コンコンと小さなノックの音。
「おや、噂をすれば、お姫さまだ」
「入っていいぞ」
 一哉がそう声をかけると、
「トリック オア トリート!」
と、元気のいい小さな魔女が部屋に入ってくる。
「可愛らしい魔女だね。はい、こむぎちゃん」
「わぁ、いおりおにいちゃん、ありがとう~」
「ほら、むぎ。俺もだ」
「かずやおにいちゃんもくれるの? うれしいの♪」
 二人からのお菓子を幼子は嬉しそうに受け取る。
「その服は瀬伊が?」
「うん、あのね。おみせにつれていってもらって、つくってもらったの~」
「どういう店で買うんだ……」
 彼の持つ怪しいグッズのたぐいの出所が結構気になるところである。
「しかし、丈が短すぎないか……」
「可愛いからいいじゃないか」
 下に着ているオレンジのパニエがふっくらと膨らんでスカートが短く見えるのだ。
「短くてもいいの。かぼちゃぱんつなの~」
 きゃっきゃっとスカートをめくろうとする幼子。
「こ、こら。むぎ」
「だめなの? むぎ、かわいくないの?」
「そういう問題じゃない」
 きょとんとする幼子に一哉はコンコンとお説教を始める。そんな二人を依織は微苦笑で見守りながら、瀬伊を捕まえて、いろいろ言わなければ…と心に誓った。

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 出掛けた先のアンティークショップで見かけたのは小さなティアラだった。大人がつけるにしては小さめだ。
『こむぎちゃんはうちのお姫さまだからね』
 ふと思い出すのは兄が身を寄せている御堂家にいる幼子。
『むぎ、お姫さま?』
 幼子の嬉しそうな笑顔。お姫さまと呼ばれて素直に喜べる年ごろだ。
「そちらのティアラをお気に召しましたか?」
 温厚そうな主人に声をかけられる。
「子供に贅沢かとは思うんだが……」
「そんなことはございませんよ。小さいお子さまだからこそ、幼いうちからいいものを見るほうがよろしいかと思いますが」
 そうすることにより、審美眼が養われるのだ…と主人は告げる。それはもっともな事だと思われるのは、皇もそうやって育ってきたからだ。
「包んでもらえるか?」
「プレゼントでございますね。かしこまりました」
 リボンの色はシックなセピア色にしてもらった。中のティアラをその方が引き立てるだろう。
「お待たせいたしました」
 主人に渡されたティアラを皇は大切そうに受け取った。
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 五月五日はこどもの日。国民の休日に関する法律で定められた立派な祝日である。そして、この日は端午の節句でもある。
「姉貴、鯉のぼりってまだあったか?」
 4月の末のある日に麻生は姉である小百合に電話をかけてそう聞いた。実家から逃げていた麻生であったが、今は向き合うようになり、こうしてやりとりをしている。
『あるけど、使うの?』
「今、小さい子供を御堂が預かっててください。女兄弟だったからだろうけど、鯉のぼりみたことないみたいなんだ」
『いいわよ。元々あなたのだし。あと二ヶ月早かったら、雛人形も貸してあげたのに』
「いや、それは御堂が……」
 等と会話をして。麻生は鯉のぼりを実家から持って帰った。


 そして、実家から持ってきた鯉のぼりをリビングに置いた。家主である一哉は昨日まで出張で不在だったので、 彼に一言告げてからと思ったのだ。
 そして……。
「羽倉、どういうつもりだ……?」
「俺に言われても……。まさか開けるとは思ってなかったし……」
「あいつは小さくても鈴原だぞ? ヤサガシをしたり、風呂の戸を躊躇いなく開けるんだぞ」
 ぐうの音もでない。
「むぎ、人魚さん~」
 ご機嫌そうな笑顔で鯉のぼりの口に両足を入れて、ピョンピョン跳ねている。人魚というよりは魚に食べられかけた人間の図であるが、泣かれるから言えるはずもない。
「ちび、人魚じゃねえよ。それは鯉のぼり」
「やだ、むぎ、人魚さんだもん」
 麻生の言葉に幼子はブンブンと首を振る。こうなると、この幼子は強情だ。どう説得すべきかと、思案しながら、一哉は箱の中の残りの鯉のぼりに視線を向けた。
「むぎ、その鯉のぼりにはお母さんや子供がいるんだ。離したら可哀想だろう?」
「……お父さん?」
「そうだ。赤いのはお母さんだ。小さいのは子供たちだ」
 一哉の言葉にむぎはコクンと頷いて、鯉のぼりから足を抜いた。
「ごめんなさい……」
 箱の中の鯉のぼりたちに謝る幼子の頭を一哉は黙って撫でてやった。


「お空で泳いでる~」
 その後、麻生が屋上に鯉のぼりを飾った。幼子は嬉しそうに見上げている。
「あれはおまえのか?」
「ああ。お前んちにもあったんだけど、いなかったし」
「いや、それでよかった。実家に連絡しようものなら、問答無用でむぎは祖父母に奪われる」
「そっか……」
 一哉の言葉に麻生も遠い目になった。
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