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一時的置き場
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 兄に関する話題がすっかり変わってしまったワイドショーを見ていた皇の携帯は相変わらず頻繁に着信している。
「しかし、皆、よほど気になるんだな……」
 着信履歴を確認していた皇はふと手を止めた。
「お袋からだ……」
 流石に母親からの連絡は無視するわけにはいかない。依織が早いうちに対応をとるだろうが、とは思いつつ、思案していると、再び母親からの着信。
「もしもし?」
『皇? ワイドショーの依織のニュース見た?』
「ああ。オフだったんで、何となくテレビつけたら……」
 恐らく同じワイドショーを見ていたのだろう。
『あなたは依織に付き合ってる人がいることはしっていたの? 随分若そうな人みたいだけど』
「まぁ、知ってたけど……。いずれ、依織から紹介されるかとは……」
『紹介って……。まさか、結婚を前提にしてるとか?』
 畳み掛けるように聞いてくる真弓のペースに何とか皇は答える。
「ものすごくいい奴だし、依織にはあいつが必要だとは思うし……」
 依織が歌舞伎の世界に戻る、前に進もうとしているのはむぎの存在あってのこと。皇自身にも救いをくれた。
『困ったわね……。私、まだ姑役をやる気にはなれないわよ……』
「はい?」
『おばあちゃん役もまだ遠慮したいし……』
 真弓の言葉に皇は何というべきか逡巡する。
「いや、あいつはまだ高校だし、まだ先だろ?」
『あら、そんなに若いお嬢さんなの? じゃあ、できちゃった婚には気をつけるように釘をささなきゃ。まだ、おばあちゃんにもなりたくないし』
 そういう問題だろうか…と思ったが、口には出せない皇であった。
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「今日はシチューにしようっと……」
 そう思って、材料を買い揃えたはずだった。
「カレーじゃねえの?」
「えーと……」
 麻生の問いに、むぎは困ったように笑う。
 材料を刻み、炒めて、煮込む。この過程はカレーもシチューも変わらない。夕べの夜に煮込んでおいて、夕食前にルーを入れる手筈だった。
「鍋の中身見て、カレーだと思って楽しみにしてたんだけどな……」
 まるで、大型犬が落ち込んだような麻生の言葉に痛まなくてもいい胸が痛む。今日の晩ご飯はカレーだと信じてかえってきたのだろうとはわかるから。しばし、思案して、むぎは折衷案を出した。
「瀬伊くんに今日はシチューにするって約束したんだ。今日も寒いし。だから、麻生くんだけ別メニューになるけどいい?」
「いいのか?」
「うん。待っててね」
 棚から小さな鍋を取り出して、むぎは鍋の中身を取り分けた。
「カレールーを入れて、スパイス入れたら、カレーになるから」
「サンキュー」
 嬉しそうに笑う麻生が何だか可愛くて、むぎもつられて笑った。
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「今年最初の雪を手にすることができれば、願いごとが叶うんだって」
 雪が降りそうな寒い夜にも関わらず、外に出たがるむぎに依織は困ったように笑う。言い出したらきかない性格の持ち主だ。
「おやおや。お姫さまは僕と過ごす時間よりも雪が大切なのかい?」
 膝の上に抱き上げて、両腕で閉じ込めるようにすると、首だけを動かしてむぎは反論する。
「そういうことじゃないけど、今年最初の雪は一年に一度だもん」
「おやおや、僕はお姫さまの願いを叶えてやれない…と?」
「そんなこと言ってないじゃない」
 むぅとむくれるむぎの頬に依織は優しく口づけを落とす。
「じゃあ、言ってごらん? 君は何を願うの?」
「言わなきゃダメ?」
「僕は気が長いから、いつまでもこうしていたっていいんだよ?」
 それはつまりむぎが話すまでは依織の膝の上という状況は変わらないということになる。
「笑ったり、馬鹿にしたりしない?」
「もちろん」
「あのね……」
 恥ずかしげな様子で上目遣いで見上げてくる恋人に多少の理性の揺らぎを感じつつも、素振りにも出さず、むぎの次の言葉を促す。
「依織くんに似合う素敵な女の人になれますようにって……」
「……」
 何とも可愛らしい願いに依織の表情はついつい緩んでしまう。
「馬鹿にしないって言ったのに~」
 その態度を誤解したのか、じたばたと暴れ出すむぎを難なく押さえ、依織に向かい合うように体勢を変えさせる。
「ごめん、ごめん。お姫さまがあまりも可愛いことを言うものだから」
 そう言って、優しく額に口づける。
「可愛いって……。子供みたいってこと?」
 不安げに見上げて来る瞳にも口づけを落として、依織は答えた。
「そうじゃないよ。そんな風に思ってくれている気持ちが嬉しいんだ。でもね、すず」
「なぁに?」
「君はそのままで十分すぎるほどにチャーミングなのだから、これ以上素敵になったら、僕が追いつかなくなってしまうよ?」
「嘘……。依織くんはあたしなんかより素敵じゃない」
「君は自分の魅力に気付いていないようだけど、だからって、無防備なままでも僕は困るのだけど?」
 そう言って、依織はむぎの唇を指先でそっとなぞる。
「困るの?」
「そうだよ。俺の腕の中をすり抜けて、どこかに行ってしまわないかって……」
 依織の言葉にむぎは首を振って、ギュッと依織に抱き着く。
「行かないもん……。しがみついて離れないもんないもん……」
「だったら、雪にさらわれないで、この腕の中にいなさい」
「素敵な女の人になれなくても?」
「僕の腕の中でそうしてあげるから」
 そう囁いて、依織はむぎに口づけを落とした。
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