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一時的置き場
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 てくてくと祥慶学園の中庭を歩いていた幼子は真っ白な鳩に囲まれた人物に気付き、足を止めた。しばらく見ていると、相手も気付いたのか、鳩を一羽、幼子を迎えるようにとばしてやる。
「わぁ……」
 鳩に導かれるようにやってきた幼子に、彼は、英次郎は笑顔を向けた。
「ボンジュール、小さなマドモワゼル」
「ぼん……?」
 キョトンとする幼子に英次郎は苦笑する。
「小さなお嬢さん、こんにちは…という意味だよ」
 英次郎に意味を教えられると、幼子はにっこりと笑って言った。
「こんにちは、おにいちゃん、はとさん!」
「うむ、いい返事だ、むぎくん」
 英次郎の言葉に幼子は不思議そうに英次郎を見上げる。
「おにいちゃん、むぎのことしってるの?」
「もちろん、知っているとも」
 鷹揚に英次郎が頷く。
「おにいちゃんはてじなするひと?」
 鳩イコール手品師という認識なのだろう。英次郎は指をチッチッと振る。
「ノン、違うよ。白玉たちは僕の大事な仲間だ」
「このこのなまえ?」
 そう言って、幼子が自分を迎えてくれた鳩を指差すと、白玉はむぎの肩に舞い降りる。
「そうだよ」
「はとさん、おりこうさんなの♪」
 にこにこと笑いながら白玉を見つめる幼子の頭を英次郎はなでてやる。
(幼くても、むぎくんはむぎくん、か……)
 幼子が鈴原むぎの幼い時の姿ということはその身に宿るオーラと幼子を見守る二つの魂からすぐに英次郎にはわかった。その後、御堂一哉から英次郎の能力を頼り、詳しい事情を知ったのだ。
(無邪気な笑顔を今のむぎくんにもう一度……)
 今は四人の王子様に守られ、両親や姉のいない寂しさを感じずにすんでいるけれど、夢はいつかおわるのだから……。
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「お雛様飾らなきゃ……」
 二月末。引っ越しを前にむぎの呟きを瀬伊は聞き逃さなかった。
「お雛様? むぎちゃんのおうちの?」

「うん。あたしとお姉ちゃんのお雛様。去年はあたしの受験とか色々あったし飾れなかったから……」
「そっか……」
 その色々の大部分は姉の失踪によるものに違いない。それを自分の受験で誤魔化す辺りがむぎの優しさなのだろう。だから、瀬伊も敢えて深くは聞かない。
「お雛様ってどんなの?」
「五段飾りのなの。みんなで飾ったんだ。小さい頃はずっと見ていたかったから、片付けたくないってわがまま言ったこともあったな……」
 昔を懐かしむようにむぎは笑う。
「え~。満足するまで飾ればいいじゃない?」
「駄目なの……。お嫁さんに行けなくなっちゃう……」
「?」
 むぎの言葉に瀬伊は首を傾げた。
「あ、瀬伊くんは男の子だもんね。知らないか……」
「何を?」
「雛人形を片付けるのが遅くなると、お嫁さんにいくのが遅れちゃうんだって……」
 古くから言われている言葉だけれど、男には馴染みがない。瀬伊はそんなものなのかと思うしかない。そして、妖精さんの笑顔をひとつ。
「遅れてもいいじゃない。僕がもらってあげる♪」
「きゃ!」
 途端に抱きつかれて、むぎはジタバタと暴れるが、振りほどけない。
「や~。瀬伊くん、離してよ~」
「僕、お婿さんでもいいよ。だから、むぎちゃんは心置きなくお雛様を飾ってね♪」
 そう言って、瀬伊はむぎを心ゆくまで抱き締めた。
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「ただいま~」
「お帰り、むぎちゃん」
 買い物袋を両手に抱えて帰宅したむぎに依織は苦笑する。
「言ってくれれば、車を出したのに。この寒いのにそんな大荷物を抱えて……」
「え~。平気だよ~。鍛え方が違うもん」
「女の子の言葉じゃないよ」
 むぎの手から荷物を受け取り、キッチンに運んでやる。
「はい、葛湯だよ」
「葛湯?」
 差し出された湯のみからは暖かな湯気がたっている。
「暖まるからね、飲みなさい」
「うん」
 ふぅふぅと息を吹き掛けながら、まずは一口。程よい甘さとぬくもりが身体中に広がる。
「暖かくて、美味しい♪」
「気に入ってもらったのなら良かった」
 嬉しそうに葛湯を飲み続けるむぎに依織も満足そうに微笑した。

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