「おにいちゃん、たくさんもってるの」
帰宅した依織がプレゼントをたくさん持っている姿に幼子はあどけなく首を傾げる。
「明日が僕の誕生日だから、一日早い誕生日プレゼントにってね。お菓子があったら、こむぎちゃんにあげるよ」
「おにいちゃん、おたんじょうびだったの?」
大きな目が驚きに見開かれている。そう言えば、この幼子は自分たちの誕生日をまだ知らないのだ。
「お兄ちゃんのお誕生日は明日だよ? でも、学校はお休みだから。もらったんだ」
「でも、むぎ。おにいちゃんにプレゼント何もできないの……」
シュンとうつむく幼子の頭を依織早さしくなでてやる。
「こむぎちゃんがお兄ちゃんのお祝いをしてくれるってだけで嬉しいんだよ?」
未来のむぎに今の幼子がにつながっているのだから、と思うから。そして、何より、小さくても相手のことを一生懸命考えようとするその姿だけで十分すぎるほどなのだ。
「でも…、むぎもおにいちゃんのおいわいしたいの」
「ありがとう……。じゃあ、明日は学校がお休みだから、一日中お兄ちゃんと一緒にいよう?」
「それでいいの?」
「そうだよ。一哉にもちゃんと言っておこうね」
「うん」
依織の言葉に嬉しそうに幼子は頷く。一哉はきっといい顔をしないだろうけれど、幼子のためにおれるんだろうな…と思うと、自然と笑みがこぼれた。
一方、リビングでは。依織に会いに来た皇がその会話を聞いてしまっていた。
「なぁ、羽倉。本当にあの子供は依織の子供じゃないのか?」
「いや、違うぜ。だいたい、子供だったら大変じゃねえか」
事情を知らない皇には一哉の親戚の子供を預かっていると説明しているが、皇は納得していない様子。
「自分の娘相手にあの会話だったら、納得はできるんだが……。幼児相手に、女を口説くような口調って何なんだ……」
「……」
事情を知らないが故の複雑な思いがあるらしい皇に麻生はかけるべき言葉が見つからず。この言葉が依織の耳に入らないように…と願うばかりであった。
FIN.
「むぎに? あけてもいい?」
皇から手渡された包みをキラキラした瞳で見つめる幼子。
「ああ」
「わぁい」
ワクワクした瞳で幼子はラッピングを解いていく。やがて出てきたのは小さなティアラ。
「わぁ~♪」
可愛らしいティアラはすぐさまに幼子の心を掴んだらしい。
「むぎのなの?」
「ああ」
「ありがとう、こうおにいちゃん」
嬉しそうに幼子はティアラを見つめる。
(小さくても女だな……)
何時だって、ことの発端はむぎから始まることが多い。それは、幼子の姿でもなお。
「かがみもちはないの?」
お正月も近いからと大掃除に業者を呼んだ日の午後。デリバリーで取った食事をしながら、幼子は和也にそう尋ねた。(業者に頼んだといっても、その前に麻生が壊滅的なところをある程度やっていたため、昼食が作れなかったのだ)
「鏡餅?」
「うん。おどうさんがね、いつもおもちやさんにかいにいくの。おかあさんがみかんとはっぱをかざるの」
橙は幼子にしてみれば、みかんに見えるのかもしれない。
「おしょうがつがおわったら、ぜんざいにするの。おかあさんのぜんざい、おいしいの♪ 苗ちゃんとお変わりいつもするの♪」
はしゃぎながら説明する幼子に一同は顔を見合わせる。
「御堂、俺、近所のスーパーで買ってこようか?」
「麻生。それなら、松川が懇意にしてる和菓子屋に今から頼んでみるよ」
バイクのキーを手にする麻生に依織がそう言って、待つように止める。
「どうせなら、つきたてもこいつに食べさせてやろう。もちは保存できるしな」
そう言うと、一哉は携帯で連絡を取り始める。数分後、電話を切ると、幼子を抱き上げて言った。
「今から、餅つきがみれるぞ」
「もちつき?」
「作りたてのもちも食べられるし、鏡餅もできるぞ」
「ほんとう?」
きらきらと瞳を輝かせる幼子。
「まさか、お餅屋さんをよんだわけ?」
半ば呆れたような瀬伊の問いに一哉はしれっとした顔をする。
「どうせなら、つきたてをこいつに食わせたいしな。羽倉、きな粉を買って来い」
「……いいけどよ」
どこまでも幼子に甘い一哉に苦笑しつつ、幼子が喜ぶのなら動く自分たちも変わらないか…、そう思い込むことにして、麻生は家を出た。